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正月じゅるど
ゆるゆると覚醒する意識の端で、鳥のさえずりを聞く。
人間にとっては1年の始まりである特別な日だというのに、鳥たちには関係ないようで、いつも通りの朝を過ごしているようだった。
あぁ、朝か。
ジュードはうまく動かない頭で思う。もぞと寝返りをうったところで、寝るときにそばにあった温もりが消えていることに気付く。同じ時間に布団に入ったはずなのに、先に起きたらしい。
ちゃんと寝たのかな。
不安に思って時計を見ると、短針は疾うに左側を指している。どうやら自分がゆっくり寝すぎたようだ。
のろのろと布団を這い出て、身支度もそこそこにリビングへと向かう。髪は寝癖で跳ねているし、服は部屋着のまま。だらしないのは分かっているが、早く部屋の主に会いたかった。
冬のヒヤリとする空気から逃れたくて足早に部屋をでると、暖められた空気とともに、出汁の香りがふわりと鼻を擽る。
「おはよう」
キッチンに立つルドガーは扉が開く音でジュードの目覚めに気が付いたらしく、調理の手を止め振り返っていた。小走りで近づくと朝の挨拶と一緒に抱擁をかわす。
「おはよう、ルドガー。起きたなら起こしてくれればよかったのに」
「ごめん。気持ち良さそうに寝てたから、悪いかと思って」
「起きたら一人の方が堪えるよ」
当たり前に気遣いをする彼のことだから仕方ないとはいえ、大切な人が自分の知らないうちに消えてしまうのはとても寂しい。たとえそれが少しの距離で、考えれば分かることでも。
それに、せっかく二人だけでいられるのだから、少しでも時間は大切にしたい。なにせ普段のルドガーにはユリウスとエルという、ある種ジュードには一生勝てない相手がついているのだ。今日はユリウスは年末年始早々抜けられない業務―GHSの回線が込み合うからどうとかいってたけど、専門外のことはいまいちよくわからない―があるだとかで大晦日の夕方からクランスピア社で働いているし、エルはカウントダウンをするのだと意気込んで無理に夜更かしをしたのが祟ってまだ起きる気配がないらしい。
「だから、次からはちゃんと起こしてね」
「わ、分かったよ」
真剣なジュードの物言いに押され頷いたはいいものの、その内容は聞いている分にはとても恥ずかしいもので、ルドガーは顔が赤くなるのは隠せそうもなかった。
真っ正面から顔を見ることもできず、調理を再開することで視線を反らしたが、耳まで赤く染まっているのをしっかりと見られていた。
「もうすぐ雑煮ができるから、準備ができるまでに身支度すましてこい」
そっけない物言いも照れ隠しなのだと思うと、年上の彼がひどくかわいらしい生き物のように見えてくる。本人に告げたなら機嫌を損ねてしまうのは分かりきっているから、素直に了承の意だけを伝えて、身支度のため一度部屋に戻る。

「何か手伝えることある?」
身支度を済ませたジュードはリビングへ顔を出すなりルドガーへ訊ねる。
「んー。そうだな、じゃあおせちと小皿を出しといてくれ。あと、そこの引き出しに入ってる正月用の割り箸も出しといてくれると助かる」
「ユリウスさんとエルの分は?」
「あー。食べるときに出すから今はいい」
「分かった」
勝手知ったるなんとやら。食器棚から小皿を取りだし、引き出しから正月用の割り箸を探しだす。何度もお邪魔して、手伝いをしているうちにキッチンの物の位置は大体分かるようになった。
あとは重箱に詰められたおせちを机に並べれば、ジュードの役目はおしまいだ。ずしりと重みのある重箱を手にすると、昨晩二人でおせちを作ったことを思い出す。
張り切りすぎて品目が多くなったから作るのは大変だったけど、並んでキッチンに立つのは楽しかったなと自然と笑みが浮かんでくる。
おせちの準備をしているうちに雑煮もできあがったらしく、湯気のあがる椀がテーブルに並べられる。
エプロンを畳んだルドガーが席につくと、先に席についていたジュードは姿勢をただす。二人してスッと背筋を伸ばして向かい合うと、どちらともなく新年の挨拶が交わされる。
「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
タイミングがピッタリ揃っていたのがなんだか可笑しくてしばらく笑いあっていた。
「雑煮が冷めないうちに食べないと」
「ルドガーの料理は冷めてもおいしあから大丈夫だよ。でも出来立てを出してくれたんだから温かいうちに食べないとね」
笑いが収まった時には椀から出ていた湯気もひいていて、食べるのにはちょうどいい頃合いになっていた。
「いただきます」
食材に、作ってくれた相手に、大切な人と共に食卓を囲めることに感謝を込めて手を合わせる。当たり前のように手を合わせていたのがお祈りのように神聖なものに思えるようになったのは、ルドガーと共に食事をするようになってからだ。

他愛もない会話を挟みながら食事は進み、重箱いっぱいにつまっていたお節に隙間が出来始める頃にはもうお腹いっぱい、と手を合わせた。美味しいからって食べすぎた。作っている間は多すぎたかと心配していたが、この分だと3日も経たずにからっぽになるだろう。心なしか膨らんだ腹部を擦っていると、ルドガーが食後のお茶を出してくれる。
「新年早々、すごい食欲だな」
「食べすぎてちょっと苦しいよ。もう、ルドガーの料理が美味しすぎるから。」
「なんだそれ」

一息ついたところで話を切り出したのはルドガーだった。
「なあジュード、この後どうする?」
「この後?」
「初詣とか」
「あぁそっか。うーんでも寝てるエルを放っては行けないよね」
「兄さんも仲間はずれにすると拗ねるしなあ」
以前ユリウスの勤務中にルドガーとエルとジュードとルルで買い物に出掛けたときは、なぜかみんなで出掛けたことがばれて、質面倒なことになったものだ。またあんなことになるぐらいなら大人しく帰ってくるまで待つ。
「ユリウスさんが帰ってくるのって」
「今日の昼。でも夜通し働いてたんじゃ、帰ってきてそのまま初詣は無理だろうな」
「ユリウスさんならやりかねないけどね」
「それでもまずはご飯を食べてしっかり休んでもらわないと!」
放ってはおくとすぐ無茶するんだからとユリウスの体調管理に息巻くルドガーがまるでお母さんみたいで微笑ましい。でも今ここにいるのは僕と君の二人なんだから、と嫉妬する気持ちもあるわけで。
「初詣は明日になりそうだし、今日は僕と二人でいてくれる?」
「えっ、でも兄さんとエルの分のご飯が」
「ご飯くらいはいいよ。僕も怒られたくはないしね。でもそれ以外の時間を僕にちょうだい?」
だめ?といわんばかりに首を傾げルドガーを見上げる。ルドガーは「え、」とか「うぁっ」とか一頻りよくわからない言葉を発していたけど最後には諦めたのか顔を赤くしながら小さく頷いた。



ゆるゆると覚醒する意識の端で、鳥のさえずりを聞く。
人間にとっては1年の始まりである特別な日だというのに、鳥たちには関係ないようで、いつも通りの朝を過ごしているようだった。
あぁ、朝か。
ジュードはうまく動かない頭で思う。もぞと寝返りをうったところで、寝るときにそばにあった温もりが消えていることに気付く。同じ時間に布団に入ったはずなのに、先に起きたらしい。
ちゃんと寝たのかな。
不安に思って時計を見ると、短針は疾うに左側を指している。どうやら自分がゆっくり寝すぎたようだ。
のろのろと布団を這い出て、身支度もそこそこにリビングへと向かう。髪は寝癖で跳ねているし、服は部屋着のまま。だらしないのは分かっているが、早く部屋の主に会いたかった。
冬のヒヤリとする空気から逃れたくて足早に部屋をでると、暖められた空気とともに、出汁の香りがふわりと鼻を擽る。
「おはよう」
キッチンに立つルドガーは扉が開く音でジュードの目覚めに気が付いたらしく、調理の手を止め振り返っていた。小走りで近づくと朝の挨拶と一緒に抱擁をかわす。
「おはよう、ルドガー。起きたなら起こしてくれればよかったのに」
「ごめん。気持ち良さそうに寝てたから、悪いかと思って」
「起きたら一人の方が堪えるよ」
当たり前に気遣いをする彼のことだから仕方ないとはいえ、大切な人が自分の知らないうちに消えてしまうのはとても寂しい。たとえそれが少しの距離で、考えれば分かることでも。
それに、せっかく二人だけでいられるのだから、少しでも時間は大切にしたい。なにせ普段のルドガーにはユリウスとエルという、ある種ジュードには一生勝てない相手がついているのだ。今日はユリウスは年末年始早々抜けられない業務―GHSの回線が込み合うからどうとかいってたけど、専門外のことはいまいちよくわからない―があるだとかで大晦日の夕方からクランスピア社で働いているし、エルはカウントダウンをするのだと意気込んで無理に夜更かしをしたのが祟ってまだ起きる気配がないらしい。
「だから、次からはちゃんと起こしてね」
「わ、分かったよ」
真剣なジュードの物言いに押され頷いたはいいものの、その内容は聞いている分にはとても恥ずかしいもので、ルドガーは顔が赤くなるのは隠せそうもなかった。
真っ正面から顔を見ることもできず、調理を再開することで視線を反らしたが、耳まで赤く染まっているのをしっかりと見られていた。
「もうすぐ雑煮ができるから、準備ができるまでに身支度すましてこい」
そっけない物言いも照れ隠しなのだと思うと、年上の彼がひどくかわいらしい生き物のように見えてくる。本人に告げたなら機嫌を損ねてしまうのは分かりきっているから、素直に了承の意だけを伝えて、身支度のため一度部屋に戻る。

「何か手伝えることある?」
身支度を済ませたジュードはリビングへ顔を出すなりルドガーへ訊ねる。
「んー。そうだな、じゃあおせちと小皿を出しといてくれ。あと、そこの引き出しに入ってる正月用の割り箸も出しといてくれると助かる」
「ユリウスさんとエルの分は?」
「あー。食べるときに出すから今はいい」
「分かった」
勝手知ったるなんとやら。食器棚から小皿を取りだし、引き出しから正月用の割り箸を探しだす。何度もお邪魔して、手伝いをしているうちにキッチンの物の位置は大体分かるようになった。
あとは重箱に詰められたおせちを机に並べれば、ジュードの役目はおしまいだ。ずしりと重みのある重箱を手にすると、昨晩二人でおせちを作ったことを思い出す。
張り切りすぎて品目が多くなったから作るのは大変だったけど、並んでキッチンに立つのは楽しかったなと自然と笑みが浮かんでくる。
おせちの準備をしているうちに雑煮もできあがったらしく、湯気のあがる椀がテーブルに並べられる。
エプロンを畳んだルドガーが席につくと、先に席についていたジュードは姿勢をただす。二人してスッと背筋を伸ばして向かい合うと、どちらともなく新年の挨拶が交わされる。
「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
タイミングがピッタリ揃っていたのがなんだか可笑しくてしばらく笑いあっていた。
「雑煮が冷めないうちに食べないと」
「ルドガーの料理は冷めてもおいしあから大丈夫だよ。でも出来立てを出してくれたんだから温かいうちに食べないとね」
笑いが収まった時には椀から出ていた湯気もひいていて、食べるのにはちょうどいい頃合いになっていた。
「いただきます」
食材に、作ってくれた相手に、大切な人と共に食卓を囲めることに感謝を込めて手を合わせる。当たり前のように手を合わせていたのがお祈りのように神聖なものに思えるようになったのは、ルドガーと共に食事をするようになってからだ。

他愛もない会話を挟みながら食事は進み、重箱いっぱいにつまっていたお節に隙間が出来始める頃にはもうお腹いっぱい、と手を合わせた。美味しいからって食べすぎた。作っている間は多すぎたかと心配していたが、この分だと3日も経たずにからっぽになるだろう。心なしか膨らんだ腹部を擦っていると、ルドガーが食後のお茶を出してくれる。
「新年早々、すごい食欲だな」
「食べすぎてちょっと苦しいよ。もう、ルドガーの料理が美味しすぎるから。」
「なんだそれ」

一息ついたところで話を切り出したのはルドガーだった。
「なあジュード、この後どうする?」
「この後?」
「初詣とか」
「あぁそっか。うーんでも寝てるエルを放っては行けないよね」
「兄さんも仲間はずれにすると拗ねるしなあ」
以前ユリウスの勤務中にルドガーとエルとジュードとルルで買い物に出掛けたときは、なぜかみんなで出掛けたことがばれて、質面倒なことになったものだ。またあんなことになるぐらいなら大人しく帰ってくるまで待つ。
「ユリウスさんが帰ってくるのって」
「今日の昼。でも夜通し働いてたんじゃ、帰ってきてそのまま初詣は無理だろうな」
「ユリウスさんならやりかねないけどね」
「それでもまずはご飯を食べてしっかり休んでもらわないと!」
放ってはおくとすぐ無茶するんだからとユリウスの体調管理に息巻くルドガーがまるでお母さんみたいで微笑ましい。でも今ここにいるのは僕と君の二人なんだから、と嫉妬する気持ちもあるわけで。
「初詣は明日になりそうだし、今日は僕と二人でいてくれる?」
「えっ、でも兄さんとエルの分のご飯が」
「ご飯くらいはいいよ。僕も怒られたくはないしね。でもそれ以外の時間を僕にちょうだい?」
だめ?といわんばかりに首を傾げルドガーを見上げる。ルドガーは「え、」とか「うぁっ」とか一頻りよくわからない言葉を発していたけど最後には諦めたのか顔を赤くしながら小さく頷いた。
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